症状別の男性不妊症の原因
▽閉塞性無精子症
精子は、精巣でつくられ、精巣上体、精管を通過し、精液として尿道から射精されます。精子を精巣でつくることはできるが、精子が通過する道である精路に閉塞があり、射精精液中に精子を認めないものが閉塞性無精子症です。
閉塞になる原因として、両側精巣上体炎、小児期両側鼡径ヘルニアの術後、射精管閉塞症、Young症候群、原因不明の精路閉塞症、射精管閉塞症、先天性両側精管欠損症などです。治療として考えられるのは、閉塞をおこしている箇所を特定し、精路を再建する手術を行い自然妊娠や人工授精へ、またこれが困難であると考えられるケースには、精巣上体もしくは精巣から直接精子を回収し、顕微授精などをおこなうことになります。
Young症候群:精巣上体管頭部の突発性閉塞による無精子症と慢性副鼻腔炎や慢性気管支炎、気管支拡張症を合併する。
▽非閉塞性無精子症
精巣で精子をつくることができず、射精精液中に精子を認めないものを非閉塞性無精子症といいます。
原因は、染色体異常や下垂体・視床下部の障害による性腺刺激ホルモンの低下、薬剤(抗癌剤など)、おたふくかぜによる精巣の機能障害、また原因が不明であることも多くあります。
ホルモン低下による場合は、ホルモン補充療法により精子の形成が認められるようになることもあります。その他の原因によるものは、精液中に精子は認められなくても、精巣の一部で精子がつくられている可能性もあるため、手術(TESEなど)で精巣の組織、または精細管から精子を探し、顕微授精を行います。
▽膿精液症
精液1ml内に10万以上の白血球が存在する場合、膿精液症と診断されます。
クラミジア感染、結核菌などにより精路のどこかに炎症を起こしたことが原因で、精液中の白血球数が増え、精子の運動率を低下させ、受精困難となります。
抗生物質または漢方を服用することによって精液中の白血球数が減少していきます。 膿精液症の場合、体外受精をしても受精率が低く、また胚盤胞への到達率も有意に低下したという学会報告もあり、体外受精、顕微授精を行う場合には、膿精液症の検査および治療を十分にする必要があります。
▽無力精子症
前進する精子が50%未満、または高速に運動する精子が25%未満の場合、無力精子症といいます。精子の運動性には、前進、旋回、振り子などがありますが、問題となるのは前進する精子がどれだけいるかということです。
前進する精子が少ないということは、卵子へ到達する精子が少ないということ、また到達しても尾が振れず、卵の透明体を通過できないということへつながり、受精障害となります。
おたふく風邪や高熱による精巣の炎症、また精嚢や前立腺などの副性器に炎症がある膿精子症を併発していることもあります。しかしこのような後天的な原因よりも、ほとんどは先天的なものだといわれ、体外受精や顕微授精が適応となることもあります。
▽乏精子症
精子1ml中に精子の数が2000万匹未満の場合、乏精子症と診断されます。また2000万匹未満を精子減少症、1000万匹未満を乏精子症と分けたり、5000万匹以下を軽度、1000〜3000匹以下を中度、500万匹以下を重度と3段階に分け診断することもあります。
精子の数は、変動も激しいため原因は、不明な点も多く、数週間をあけ数回検査をすることが必要です。
精子数によっては、ホルモン療法、漢方などで改善が見込まれる場合もありますが、人工授精、または体外受精、顕微授精が必要となってくるケースもあります。
また精索静脈瘤が原因と突き止められた場合は、手術が適応されることで改善されることもありますが、これも精子数によっては効果が見込まれないこともあり、体外受精、顕微授精の対象になることがあります。
▽勃起不全(ED)
性交時に勃起でいないことをいい、『性交時の75%以上で性交が行えない状態』と定義しています。
心因性で起こる場合が多く、これを機能性勃起障害といい、心理的要因はなく勃起しないことを器質的勃起障害といいます。心因性の勃起障害の場合、心療内科などへの受診、またはカウンセリングを行い、障害となっているトラウマや心理的ストレスなどを取り除くことも必要です。
またバイアグラが有効なこともあります。バイアグラは、陰茎海綿体に直接作用をして勃起を持続させる薬で、もともとは狭心症の治療薬として開発され、臨床試験の段階で、勃起の改善効果が認められ勃起障害改善薬として脚光を浴びました。服用には、性交の1時間前に軽食をとる、アルコールは控える、また勃起障害のためであり、性欲を増強させる薬ではないなどの注意があります。医師の診断の元、血圧測定、血液検査、心電図などの検査を行ってから処方されます。
▽逆行性射精
精液が外尿道口より射精されず、膀胱に逆行することをいいます。性行為も正常に行なえ、射精感もあるにもかかわらず、外尿道口より射精された精液が非常に少ないこと、またその直後の尿の中に精子が認められることでわかります。
この場合、膀胱内に射精された精液を回収し、人工授精体外受精などを行います。精子を回収する方法としては、精子を回収する1週間前から重曹を服用し、体をアルカリ性へ傾けます(精子はアルカリ性に強く、酸性に弱い性質を持つことにより)。排尿後に膀胱内にバルーンを挿入し、精子洗浄後で数回洗浄した後、新たに精子洗浄液を膀胱内に注入します。
その後、マスターベーションによる射精感後の排尿液(精液を含む精子洗浄液)を回収し、また残尿感が多い場合は膀胱内にバルーンを挿入し精子を回収します。
▽染色体の異常
染色体の異常による不妊治療は、いろいろな難しい問題を含んでいます。染色体異常による無精子症などのためにTESEにより採取した精子で妊娠に至るケースもでてきました。しかし根本的に染色体異常を治療することはできないため、精子が採取できても、妊娠に至らないこと、またその遺伝子な問題を完全にクリアすることはできません。
染色体には、性染色体を常染色体があり、性染色体異常による不妊原因の1つにクラインフェルター症候群があります。過剰なX染色体を持ち、精巣の萎縮、女性のような乳房、無精子症などが特徴的で、外性器の発達はほぼ正常です。また常染色体上に転座(染色体の数には異常がなく、一部で入れ代わっている状態)があり、不妊となるケースもあります。
▽奇形精子症
70%以上の精子が形態異常を伴うもので、受精能力は低いとされています。 顕微授精が対象になりますが、その際にできる限り形態のよい運動精子を選ぶことで受精が可能になります。
この場合、顕微授精を行っても、受精率、妊娠率とも大変低い状況ですが、出産まで至ったケースもあり、今後の研究に期待されています。また『精子に形態異常がある=奇形児の出生』ではなく、あくまでも精子の形態異常によります。
▽死滅精子症
射精された精液の中の精子が、死んでしまっている場合、死滅精子症といいます。
精液検査における精子濃度には、問題はないが精子が死滅してしまっているという状態です。造成過程に何らかの障害があるために、精子が死んでしまうのですが、それがどの過程、なぜ起こるのかに不明な点が多く、この症例の場合、顕微授精を行っても受精率が大変低いことが報告されています。
もともと精子となる細胞自体に何らかの原因があるのではないかとされるケースと精巣上体の分泌液に異常があり精子が死んでしまうケースなどがあり、分泌液に異常がある場合は、精巣から直接精子を採取することができれば、顕微授精も可能で、受精、妊娠も期待できます。
▽その他
慢性的な疾患、身体障害などが原因で不妊となる場合もあります。糖尿病、腎不全など内科的疾患により造成機能が低下している場合、または脊髄損傷などの身体障害により性機能が低下している場合などがあげられます。
腎臓の機能が低下するにつれ、造成機能も低下し、重度になると無精子症になることもあります。
脊髄損傷については、障害を受けた部位の高さで身体上の障害程度は変わり、性機能の障害も射精障害、勃起障害、逆行性射精などと変わり、また脊髄損傷を受けてから年数を重ねれば重ねるだけ精巣は、萎縮や機能低下を起こし、TESEなどで精子を採取しなければならないこともあります。その他は、過去に受けた放射線療法により、精祖細胞が影響を受け無精子症になる、悪性リンパ腫、精巣癌などの抗癌剤治療により精巣にダメージを受けたことなどがあげられます。
男性不妊の鍼灸治療